事実を書きますのでオチはありません。
怖い、というか、不思議な話かも。
unnamed (93)

母方の祖母が信心深い人だった。
幼い頃、群馬の母方の家に行くとよく子供だった自分の手を引いて山裾の神社に連れて行った。
群馬は視界に山が入らないところが無い。
母方の家はすぐ裏がもう山だ。
近隣の墓はほとんど山中にあって蜘蛛の巣みたいに細かな路が入り組んでいる。

金比羅様と祖母が呼んでいた神社というのは
丸太の鳥居
破れた障子
抜けた濡縁
管理されているとはとても言えぬ有様。

でも祖母は何度となく私をそこに連れて行った。
細い山路を、私は付いて行った。
祖母は神社をすごく有難がっていた。

7つか8つぐらいの時だと思う。
「今日は特別」そう言った祖母は荒れ神社の裏手に私を連れて行った。
初めて見る神社の裏は昼なのに暗い。
夕暮れのようだった。
そしてそこには人ひとりがようやく通れそうなくらいのすごく、細い路が続いていた。

路を登り、下りけっこう進んだ先は開けた場所だった。
明るくて、不思議な場所だった。
ローマのコロッセウムを半分にしたような大掛かりな雛壇のような石積み。
段には小さい、位牌のようなものがたくさん並び短冊のついた笹。
折り紙飾り 仏花で彩られ そよぐ風で風車が回転していた。

私は嬉しくなった。
手を合わせようとすると祖母は私を叱った。
「ここは強い神様が居るだからお願いごとをしてはいけない。きっとそれは叶うけどここの神様は見返りを要求する神様だから」
そう言った。

そこにはそのあとももう一回だけ連れて行ってもらった。
やはり変わらず、鮮やかに飾られた。
とても、綺麗な場所だった。

私が中学校に上がってすぐ祖母は亡くなった。
事故だった。
とても悲しかったが突然だったので実感が持てなかった。

さらに時は過ぎて私も大きくなり母から漏れる情報から母の実家の状況が分かってきた。

祖母の死の前。
母の兄は自動車整備の会社を辞めて独立していた。
だが不況が重なり、相当苦労していたらしかった。

驚いた。
叔父は高校に進んだ私に誰にも言うなとポンと10万円くれたこともある。
事業だって順調そのものだ。

母によると祖母の死を前後して赤字続きだった叔父の工場はグッと持ち直したそうだった。

私は例の不思議な場所を思い出していた。
もしかして祖母はあの場所でお願いしたんじゃないだろうか。

「わたしはどうなっても構いません。倅の会社を救ってやってください。」って

きっとそうだと思った私はもう何年も行っていないあの神社にもう一度行きたいと思うようになった。
次に群馬に行く事になったとき一人で神社に向かった。
久々で少し迷ったがどうにかあの神社に辿り着いた。

でも、私の行きたい場所は此処ではない。
「あの場所」だ。
私は裏手に回った。
あの日と同じように。

だが、そこに路は無かった。
あった形跡も無かった。
信じられなくて何度も神社の周りを回った。
それでも、無かった。

信じられなかった私は上記のような「あの場所」の様子を母に、叔父に、祖父に、叔父の子どもたちに聞きまくった。
でも、答えは同じ。

「そんな場所知らない」

私は怖くなった。
すごく、すごく、怖くなった。
今、思い出しながら書いていてもスゴク怖い。
それ以来、神社はおろか裏の山自体にも近寄らなくなった。

いや、それどころではない。
あらゆる山道に恐怖を覚えるようになった。
「あの場所」があの群馬の山中の何処かにだけあるとは思えなくなっていた。
いつか何処かで突然あの場所に行ってしまうような気がするのだ。

あの頃は自分の命を引き替えにしなければならないのなら、どんな願いも叶わなくていいと思った。
でも、今は必ずしもそうではない。
もしそんな、切羽詰ったときにまたあの場所に行ったなら。
そう考えると、恐ろしいのです。


オススメサイト新着記事