昔から霊感があると自称している同級生(♀)がいた。
unnamed (55)

大学生になった頃になっても彼女は時々「霊が見える」だとか「あそこには良くないのがいる」だとかよく言っていた。
日頃仲良くしている私は、そんな彼女の言葉を聞いてか聞かずか、「そうなんだぁ、怖いねぇ」などと軽く聞き流していた。
高校の頃から一緒で、霊を感じると言い張る彼女にずっと半信半疑だったが、この前それを決定付ける出来事が起きた。

先々週の日曜日。
バイトが終わり少々疲れていた私は、携帯を見るのを忘れて床に着いた。
目が眠さでまどろむ頃に携帯を見た。
彼女からメールが来ていた。

Sub:無題
本文:悪霊にとりつかれたかもしれない…

私は彼女のメールに寝たまま首を傾げながら、何があったの?と返信した。
その日、彼女からの返信はなかった。

次の日。
大学の経営学の授業で会った彼女は、いつもより少々やつれて見えた。
私が昨日のメールについて聞くと、「あぁ…何でもないよ」と言ってそれきり黙りこんだ。
私がそれでも彼女を心配して聞き続けると、「…あなたに憑いちゃダメだから」私はなんだか背筋が寒くなった。
正直な話、私は霊の存在なんてほとんど信じちゃいないけれど、その時の彼女の顔と口調は嘘を言っているようには思えなかった。

授業が終わり、彼女と別れ帰途につくと、彼女からまたメールがあった。
「今日はごめんね」悩み事があれば相談に乗るよ、と返信して携帯を閉じた。

変化は次の日の夜に起きた。
部屋で漫画を読んでいた時、彼女から電話が来た。

私「もしもし?」
彼女「あ…今大丈夫?傍に誰かいない?」
私「いないけど、どうしたの?」
彼女「ちゃんとよく見て。黒い影とか気配とかない?」
私「大丈夫だよ。どうしたの?」

彼女は何かに慌てている様子だった。
声に生気が無く、でも何かに急かされているような。

彼女「うん…実はね、昨日のメール、本当なんだ」

その時、電話の向こうで、彼女の声の他に何かが聞こえているのに気がついた。
カリカリ、カリカリ、と爪で何かをひっかくような音。

私「悪霊に疲れたって本当なの?なんでそんなことになったの?」
彼女「私が、おばあちゃんの言ったことをしっかり守らなかったから…」
私「言ったこと?…それって一体どんな…」
彼女「わ、私が…管をちゃんと整理しておかなかったから…」
私「クダ?一体何のこと」

段々とひっかく音が大きくなってきていた。
カリカリ、カリカリ。

私「ねぇ○○ちゃん。後ろで鳴ってる音、何?」
彼女「え?音?」
私「うん、カリカリって」
彼女「ヒッ!!」

彼女は小さく悲鳴を上げると、電話を切った。
いや、今思うと「何かに」切られたのかも知れない。
その後何度か彼女に電話もしてメールもしたが、返事はひとつとしてなかった。

その日から、彼女は学校で全く姿を見なくなった。
授業中も、いつもいる談話室にも、彼女はいなかった。

彼女と全く連絡が取れなくなって5日が過ぎ、心配で堪らなくなった私は彼女のマンションを訪れた。
私がマンションの入り口に入ろうとする直前、携帯が鳴った。
彼女からの電話だった。

私「○○ちゃん?授業に全然出てないけど、どうしたの?」

返事はなかった。
でも、電話の向こう側から何か聞こえていた。
爪で何かをひっかくような音と、何かの声。
ごにょごにょと何かを呟いているような、不気味な声。

私「どうしたの?今マンションの前にいるんだけど、何かあったの?」
彼女「…来ないで」
私「え?」
彼女「く、来ると、あなたも憑かれてしまう。」
私「一体どうしたの?憑かれるってなに?」
彼女「私みたいに…つ、憑かれて…しまうから、だめ。

彼女の声とは別に、あの呟くような声がしていた。

私「今、誰かいるの?」
彼女「い、いない。誰も…誰も…ひゃあああ!!」

彼女のつんざくような悲鳴がした。
私はエレベーターに乗って彼女の部屋の前まで急いだ。

私「どうしたの!?何があったの!?」
彼女「いや!あの音がする!!誰かいる!!!」

私がエレベーターに乗っている最中も、彼女は何かに恐れおののき絶叫し続けていた。
彼女の部屋の前まで行くと、中で彼女の絶叫と大きな物音が響いていた。

私「○○ちゃん!?」

私は彼女の部屋に飛び込んだ。
すると、彼女の声も物音も止んだ。

私「・・・○○ちゃん?」

私はゆっくり玄関を進み、彼女を探した。
彼女の寝室の前まで来た時、中から音がするのに気付いた。

カリカリ、カリカリ。

私「中にいるの?」

返事はなかった。
私はドアノブを回してドアを開けた。
彼女はベッドの上で、私に背中を向けるように体育座りしていた。
部屋の中はちらかっていた。
テーブルはひっくり返され、いつも綺麗にしてあった棚の小物は全て床に散っていた。
彼女は壁に向かって何かをしきりに呟いていた。
指を壁につけて、擦っているように見えた。

カリカリ、カリカリ。

彼女は爪で壁をひっかいていた。

私「○○ちゃん?大丈夫」

私はベッドの横に回りこんで彼女の顔を覗き込んだ。
生気を失い、深い隈をつけた目を、カッと見開いていた。
ゆっくりと彼女の首がこっちを向いた。

彼女「おばあちゃんの、狐が…」
私「キツネ…?」
彼女「あの音がする…カリカリって…憑かれてるの…」

彼女は正気をなくしているように見えた。

彼女「カリカリって…音が…ひぃぃ…」

彼女は膝に顔を埋めて、それきり黙りこんだ。
私は、彼女の言う音が、自分の爪で立てている音なのだろうと重い、彼女の腕を掴んで壁から離した。

彼女「…止んだ…」

それを言うと、彼女は座った姿勢のまま横に倒れこんだ。
私が彼女を抱き起こすと、彼女は浅い寝息を立てていた。
わけのわからない私は、彼女の携帯から、近くにある彼女の実家へと電話した。

私「○○のお母さんですか?私△△です。」
母「あ、△△ちゃん?どうしたの○○の携帯から」
私「私もわからないんですが、○○ちゃんが変なんです。すぐ来てください」

彼女の母はすぐ行くと言って電話を切った。
その時、何かが目の前の壁を這っていくような気配を感じた。
遅れて音が聞こえた。

カリカリ、カリカリ。

音は、目の前の壁を横に移動して、開けたドアの方へと向かっていくようだった。
少しずつ音が遠のき、やがて聞こえなくなった。
私は、彼女の母が来るまでの数10分間の間、金縛りにあったかのように動けなかった。

大学が夏休みに入り、彼女はマンションを引き払い実家で暮らすようになった。
あれからも度々彼女の家を訪れ彼女と会うが、彼女は以前生気を失った顔のままいつも俯いている。

4日前、珍しく彼女の祖母が家に泊まっていたので、彼女について聞いてみた。

「管狐にやられたのかもしれんね」

そう言って祖母は家の奥から一つの小さい筒を取ってきた。

「これが狐を入れておく管でね、これを大事に置いておかないと狐様に祟られるんでね」

聞くと、祖母の家は代々管狐を扱う家なんだそうで、彼女も例外ではなかったそうだ。
彼女はマンションに筒を一つ持っていったが、無くしてしまって狐に憑かれたのではないか、と祖母は言う。

狐憑きになってしまった彼女が一体これからどうなってしまうのか、私にはわからない。


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