中学の頃、ヤラセの心霊写真で小遣い稼いでる奴がいた。
まぁ俺も片棒かついでたんだけど。
Horror Cam Pic (2)

『ヤラセ』と言ったところで、合成なんかのトリックでは一切無い。
要するに、仕掛け人Aが「ここだ!」と言ったところで写真を撮ると、必ず何か写っているのだ。
客が持ってきたカメラで、客に撮らせるというのがポイント。
当時の中学生の小遣い基準を考えると、相当にいい稼ぎになった。

そいつとは幼なじみ(と言ってもそんなに親しくなかった)だったんだけど、小さい頃は、高架下や裏路地など妙なところに座り込んで、ボンヤリ遠い目をしてるおかしい奴、という印象しか無かった。
要するに、その頃からずっと『見て』いたんだろう。
成績も壊滅的に悪かった。掛け算出来ないんだから相当なもんだよ。

Aが言うには、出てくるそれは殆どの場合霊じゃないそうで、「じゃあ何なのか」と聞いても答えてくれない。
ただ、それは割とAの自由になると言っていた。霊は自由にならないらしい。

客と撮影に出ても、『ここ』というポイントが見つからないこともある。
そんなときに行うのが『ヤラセ』だ。Aがそれをどこからかその場に呼ぶのだ。
これはAが疲弊するのと、また「あまり良くない」らしかったが、信用には変えられない。
客層も幅広がってたし、仕事にかけるプライドみたいなものがあったんだよな。

で、中3になりたてのゴールデンウィークの夕方。
俺達二人は、客といつものように撮影に繰り出していた。
場所は廃工場で、接客担当の俺は「死んだ工員の霊が…」とかなんとかテキトーに語っていたんだけど、Aがヤラセの符丁を送ってきた。
Aは知らない奴と一緒では集中出来ないのと、集中する姿が何と言うかヤバいので。
符丁を送ってきた時点で、俺は客と共に少しの間場所を変える決まりになっていた。

作業場から廃工の入口、受け付けみたいなところへ移り、五分ほど…
中から絶叫が響いた。
Aのものだ。
客をそこで待たせ駆けつけると、へたりこんで叫び続けるAの眼前に…なんだろう?
真っ黒い、巨大なキノコ雲のようなものがもうもうと立ち上り、広い作業場を埋め尽くしていた。

スゴすぎるそれに俺もドン引きで、呆然としていたが、まさか火事かと思った途端、ほぼ無意識に体が動いて、俺はAと客を連れ慌てて逃げ出した。

客が俺を追い越して何処かへ走り去る。
それはいいとしても、Aまで途中から俺を抜いていこうとしたため、腕を掴んで一旦止まらせた。
止まらせても走ろうとする。
俺も興奮していたから、「あれは何か、どうしたのか」と聞くと、「父さんが死んだ」と泣く。

確かにその日の夕方、撮影の前、Aの父は交通事故で亡くなっていた。
携帯があれば話は早かったろう。
Aは一週間ばかり学校に来なかったが、登校してきて開口一番俺に言ったことには、「もうああいう事はやめる。ああいう物を見るのもやめる。現実を見る」
元々仲が良かったわけでもない。
それに、親父が死んだとき、Aは俺みたいな馬鹿と小遣い稼ぎに興じていたのだ。
仕方ない事とはいえ、罪悪感は拭いきれないだろう。
俺の方も罪悪感と気まずさがあって、つるむこともなくなった。
また、Aは「現実を見る」と言ったが、掛け算も出来なかったボンクラがいきなり成績を上げ、一年足らずで県下一の進学校に進学するまでになった。
今まで現実見てなかったせいで、ボンクラだったとでも言うのだろうか?

それまでAが見続けていた霊ではないそれの正体が、結局のところよくわからないんだけど、あのキノコ雲は参った。
今でも夢に出る。


オススメサイト新着記事