三年前の夏の話です。 
Horror Cam Pic (4)

ある週末の夜、私は知人から麻雀の誘いを受けました。
翌日何も予定がなかっでので、気軽に応じました。 

知人宅は私鉄沿線にあり、駅から少し離れた所にありました。 
私も数回しか訪れたことはなかったのですが、何とかなるだろうと、その時は思いました。 

場所は世田谷。
通りを隔てて町名が変わるような場所でした。 
また深夜というともあり、辺りは見慣れぬ風景になっています。 

携帯で知人に連絡を取り、番地を聞いたのですが、案の定迷ってしまいました。 
狭い路地に入り込み、歩くこと数分。
目の前に公団住宅らしき建物が現れました。
その入り口らしき場所に、住宅表示板が見えました。 

私がその板の前に立ち、現在地を確認していると、何気に視線がそれました。
視界の端に黒い人影が…。
それは階段の踊り場から、地面を覗き込んでいます。 

自分のいる所から百メートルほど離れていました。 
(どうやら男らしい) 

しばらく目が離せずいると、なぜか背中に悪寒が走りました。 
ここにいてはいけない!そう感じた瞬間、それはこちらに顔を向けました。 

私が駆け出すと、背後に足音が反響しました。 
ぺたぺたという音に思わず振り返ると、それはかなりのスピードで階段を降りてきます。 

(追われている!!)
本能的にそう感じました。 
それを巻こうとして、細い路地を右往左往走りましたが、足音は近づく一方です。
そして、全くペースが乱れないのです。 
逃げているという実感は、強い恐怖となり、まるで押しつぶされそうでした。 

やっと街灯のある通りに出ると、突然女性の悲鳴がしました。 
出くわした女性が、私の尋常でない様子に驚いたのかもしれません。 

奇妙な話ですが、私はなぜか解放感を覚えました。 
何者かの悪意を振り切ったという感じです。 

コンビニ近くのバス停のベンチに腰掛け、動悸が治まるまで休みました。 
気持ちが落ち着いて、知人に電話しました。 
駅まで迎えに行くという話になり、私は電話を切らずに歩き出しました。 

道のりを誘導してもらいながら、きた道を引き返していると、急に通話が途切れました。 
辺りは人通りもない住宅地で、静寂に包まれています。 
すぐに背後から、ぺたぺたという足音が聞こえてきました。 

結局、その夜は知人宅へ行かずじまいでした。 
たまたますぐにタクシーを拾うことができたので、迷わず帰ることにしました。 
タクシーに乗り、安心した瞬間、

「運がよかったですね」

と、運転手に声をかけられました。 
運転手にどういう意味かを聞くことは私にはできませんでした…


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