僕の小学校には、学校らしくそれなりの数の怪談があった。
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トイレの花子さんのようなもの、理科室の人体模型、二宮金次郎像、13階段…。
 
俗にいう七不思議というものにはほど遠く、内容も認知度もバラバラな噂だったが、暗くなりだした放課後にその話題の場所の近くにいると、早足に通り抜けたくなる程度には浸透していた。
 
思わず避けてしまう程度には怖さを与えるけれど、この手の話はどの学校にもあったろうし、進学して別の学区・地区の友人と話をすれば、似たような話ばかりでがっかりしたものだ。
 
しかし、一度だけ学校の怪談としては聞いたことがないような経験を、実際にした事がある。

どの学校でもよくある話かもしれないが、僕の学校の体育館天井には結構な数のバレーボールが嵌っていた。
 
体育館の天井は高く、ちょっとやそっとではそこまで上がりはしないのだが、なにかの拍子に高く跳んでしまったボールは体育館の天井の骨組みの部分に嵌って、落ちてこなくなってしまうのだ。
 
回収しようにも手立てがなく、モノを投げてボールをはじき出そうとしてもそこまで届くほど投げられる学生は周りにいない。
 
幸いボールが減ってしまう事を加味してか、学校は沢山のバレーボールを揃えておいてくれたのでボールが足りなくて困ると言う事はなかったが、天井にまだらに白いボールが嵌っているのは遊び心を刺激していた。

何とかしてボールを叩き落とそうと高い所に登ろうとして先生に怒られたり、何度も上にむかってボールや靴を投げたりして、無駄な労力を使ってはへとへとになったものだ。
 
子供たちの手でボールを落とせたという話は聞いた事がなく、ボールを通してヒーローになろうとする勇敢な子供は何人も出てきたものの、落とせた話は聞いたことがなかった。

極たまにボールは落ちてくるが、それは体育館のきしみの影響によるものだったり、空気が抜けてしぼんだボールだ。そういうボールは使えるようなら何事もなかったかのようにボール籠に戻していた。

この、子供たちの気持ちを引き付けて止まなかった天井のボールが、一晩にして大量に落ちてきた出来事がある。
 
それが、阪神淡路大震災の時だった。

僕が当時住んでいた地域では建物の倒壊などはなかったものの、食器棚が倒れそうになるほど強く揺れて、このまま家が壊れてしまったらどうしようと子供心に怯えていた。
 
結局大きな被害はなく、翌日には通常通り学校があった。

通学してみると、体育館が騒がしかった。どうも地震のせいで天井のボールが落ちてきたらしい。
 
ただ、ボールが落ちてくるくらい体育館に影響があったなら、他にも落下物がある可能性もあり危険だと先生たちは見なしたようで、体育館は立ち入り禁止になっていた。
 
入口が開いていたので覗いてみると、床には確かにぱっとみただけでもバレーボールが4~5個はあったように思う。

問題はこの後だった。

学校ではその後、体育館のメンテナンスを行なう事にした。
 
メンテナンスでは天井の骨組みなども確認していて、しぶとく骨組みに嵌っていたバレーボールはその作業の時に落としていたらしい。
 
このしぶとく生き残っていた天井のボールの多くに、その作業員は首をかしげたそうだ。
ほとんどの生き残りのボールに、ちょうど子供の手形のような赤黒い汚れがあったらしい。

そして、メンテナンスの後解放された体育館で遊んでいた僕たちは、バレーボールが普段では考えられないような弾み方、跳び方をして天井に吸いこまれて行くのを見る事になる。
 
軽く投げたボールや、足に当たってしまったボールが、想像もできない速さで天井へ飛んで行って嵌ったのだ。



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