年末はどこの家庭でもせわしない。
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はやる気持ちを抑えながら、せっかちな俺は女房と子供の身支度を待ち、愛しい子供の安らかな顔と女房の穏やかな顔に思いを馳せていた――。

「おい、まだかよ?」 

俺は、女房の背中に向かって言った。
どうして女という奴は支度に時間が掛かるのだろう。 

「もうすぐ済むわ。そんなに急ぐことないでしょ。…ほら翔ちゃん、バタバタしないの!」 
確かに女房の言うとおりだが、せっかちは俺の性分だから仕方がない。 

今年もあとわずか。
世間は慌しさに包まれていた。

「いきなりでお義父さんとお義母さんビックリしないかしら?」 
「なあに、孫の顔を見た途端ニコニコ顔になるさ」 

俺は傍らで横になっている息子を眺めて言った。 

「お待たせ。いいわよ。…あら?」 
「ん、どうした?」 
「あなた、ここ、ここ」

女房が俺の首元を指差すので、触ってみた。

「あっ、忘れてた」 
「あなたったら、せっかちな上にそそっかしいんだから。こっち向いて」 

「あなた…愛してるわ」

女房は俺の首周りを整えながら、独り言のように言った。 

「何だよ、いきなり」 
「いいじゃない、夫婦なんだから」 

女房は下を向いたままだったが、照れているようだ。 

「そうか…、俺も愛してるよ」

こんなにはっきり言ったのは何年ぶりだろう。 
少し気恥ずかしかったが、気分は悪くない。
俺は、女房の手を握った。 

「じゃ、行くか」

「ええ」 

そして俺は足元の台を蹴った 




【推考】
「もうすぐ済むわ。そんなに急ぐことないでしょ。…ほら翔ちゃん、バタバタしないの!」
俺は傍らで横になっている息子を眺めて言った。
⇒息子は、お母さんの手にかかって亡くなり、静かに横たわっている
(抵抗したためバタバタしていた)


「いきなりでお義父さんとお義母さんビックリしないかしら?」
⇒生きている義両親ではなく、既にあの世へ行ってしまった義父と義母が、突然自分たちがあの世にきて驚くのでは?といった意味。


女房が俺の首元を指さすので、触ってみた。
「あっ、忘れてた」
女房は俺の首周りを整えながら、独り言のように言った。
⇒縄を首にかけるのを忘れていたが、奥さんが旦那さんの首に縄をかけてくれた。


「じゃ、行くか」
「ええ」
そして俺は足元の台を蹴った
⇒足場を蹴って夫婦であの世へ旅たつ。
「行くか」は「逝くか」だと思われます。

悲しく怖いお話です。

     


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