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A子とB男、C子とD男の2組のカップルが、
夏休みを利用して一緒に旅行をすることにした。
 

B男は仕事の都合で
出発が遅れそうとのことなので、
A子はC子とともに
D男の運転する車に乗り込み、
先に目的地のホテルへと向かう。

道中、A子はC子やD男と
他愛のない話をして盛り上がっていたのだが、
車が山道に差し掛かった頃に
急に睡魔に襲われ、深い眠りに落ちていった。

A子が目覚めると、
そこはどうやらホテルの一室。
知らない間に目的地に着いてしまったらしい。
辺りを見まわすと深刻な表情の
C子とD男が自分のことを見つめている。

D男は重々しく口を開いた。

「目が覚めたかい?
実は…とても残念な知らせがあるんだ。
どうか心を落ちつけて、
ショックを受けないようにして欲しい。

さっき地元の病院から電話があった。
B男はここに向かう途中に
崖から転落して病院に運び込まれ…
さっき息を引き取ったそうだ」

あまりに突然の知らせ。
A子は驚きで頭の中が真っ白になり、
「嘘でしょ…」とだけ尋ねるのがやっとであった。

「私たちも嘘であって欲しいとどんなに願ったか。
でも、これは事実なのよ」

C子が涙ながらにA子に語った。

もう夜も遅かったため、
病院へは明日行くことにし、
その日はみんな早めに眠りにつくことに決まる。

A子があまりに大きなショックを
受けているようであったため、
C子もD男も今日は
一晩中A子の側にいると約束をした。

その日の夜遅く。
A子が一睡もできぬままに過ごしていると、

「ズリッ、ズリッ」

廊下から何かを引きずるような音が聞こえてきた。

音はだんだんA子たちがいる部屋に近づいてくる。
やがて、音が扉のすぐ前まで迫り

「ドン、ドン」

ドアを誰かがノックする音、
そして聞き覚えのある声が響いてきた。

「A子、A子!
頼むから返事をしてくれ」

この声は…B男だ!

A子は起き上がり扉に駆け寄ろうとしたが、
誰かに手を掴まれてそれを阻まれる。

見ると厳しい表情のD男が
しっかりとA子の手を握って離さない。

C子も不安そうな表情でA子を見つめている。
二人ともA子同様、眠れぬ夜を過ごしていたのだ。

D男が強い口調でA子に言った。

「A子、行っちゃだめだ。
B男はきっと君を迎えに来たんだ。
もし扉を開けたら、君まで死んでしまう!」

それでも扉の方へ行こうとするA子に向かい、
C子も涙ながらに訴えた。

「ダメよ、A子。行ったらもう戻れないわ。
B男はもう私たちと同じ世界の人間じゃないの。」

躊躇するA子。

その時、再び強く扉が叩かれた。

「頼む、A子。
お願いだ…開けてくれ。
俺は、俺はおまえなしじゃダメなんだ。
お願いだ、A子。お願いだ…」

A子は二人を振り払い、
涙ながらにこう言った。

「ごめん。二人とも、ごめん。
私もB夫なしじゃ生きていけない。
B男がいない世界で生きるぐらいなら、
B男と一緒に向こうの世界へ…」

A子は扉に駆け寄ると鍵を外し、
力いっぱいに扉を押し開けた。

まばゆい光が部屋の中に溢れた…

「A子、お願いだ。
開けてくれ。目を開けてくれ…」

B男の声がすぐ近くで響いている。

A子は目を開き辺りを見まわした。
そこは病院の一室。
どうやらA子は病室のベッドに寝ているらしい。

A子の目の前にはB男の顔が、
涙で目を真っ赤にしたB男の顔が見える。

「A子…」

B男はそれだけをやっと口に出すと、
A子をしっかりと抱きしめた。

聞くとA子たちを乗せた車は
ホテルへ向かう途中に崖から転落。
A子はすぐに病院に運び込まれたが、
一晩の間生死の境をさまよっていたらしい。

「それから…C子とD男は死んだよ。
病院に運び込まれた時には、
もう手遅れだった」

B男は言いにくそうに
それだけをA子に告げた。
 


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