unnamed (2)

とある病院での出来事。 

大部屋に入院しているある男は、
同室にいる何人かのうち、
一人の痩せた男のことが気になっていた。

この男は、来る日も来る日も
夜半に部屋を抜け出し、
どこかに出かけている。

そして小一時間もすると
何事も無かったかのように
部屋に戻ってくるのだ。

別にけたたましい音をたてて
部屋を出て行くわけではない。
むしろ音も立てずに部屋から消える。

そういう意味では、
男の夜間外出に迷惑しているわけではない。

しかし、純粋な好奇心から
この痩せすぎの男が夜中に
何をしているのかが気になる。

あまりに気になるので
夜も眠れなくなったある日、
思い切って後をつけてみることにした。

痩せすぎの男は、
尾行されていることも知らずに
どんどん歩いていく。

あっという間に病院を出て、
すぐ近くにある墓地へと入っていった。

夜中に墓地とは明らかに普通ではなかったが、
そのことがかえって尾行する側の
好奇心を掻き立てる。
いよいよ慎重に先行する男の様子を探った。

やがて男はとある家の墓の前で立ち止まった。

そして、墓石に向かって何かをしている。
後をつけていた男の所からは、
痩せすぎの男がそこで
何をしているのか分からなかった。

そこで、相手の手元を伺える位置へ
密かに移動した。

すると、その痩せすぎの男は、
墓の下から骨壷を取り出し、
その中に入っていた遺骨をかじっていたのだ。

様子を見ていた男は、
思わず「あっ」と声をあげてしまった。

その途端、骨をかじっていた男は
尾行者に気がついたようだった。

尾行がばれてしまった男は、
わき目も振らず一目散に自室に駆け戻った。

それから少し遅れて、
あの同室の男が部屋に戻ってきた。

男は別段慌てる風でもなかったが、
めいめいのベッドで眠っている
同室の患者の顔を覗き込んで回っているようだった。

先に逃げていた男は、
薄目をあけてその様子をうかがっていたが、
追ってきた男が何をしているのか良く分からなかった。

ただ、何かをつぶやいていることだけは分かった。

やがて、
自分の所にもその男がやってきた。
他の者にしていたように、
顔をこちらに近づけてくる。

そして…。

「一つ、二つ、三つ…。
鼓動が早いな。」

「見たのはお前だな。。。」

と男が耳元で囁いた。

 


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