俺は霊を全く信じていなかった。
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いるわけがないと思ってたし
いわゆる心霊スポットなんかに行っても、
ぜんぜん怖くないから
どうやって一緒に来た奴らを驚かそうかということだけ考えてきた。

時間が許せば、心霊スポットに事前に一人で出かけ、
仕掛けをしてその後で友達を誘い心霊スポットに出かけていた。

そこで驚かせた後、
必ずネタばらしをして最後にはみんなを安心させていた。

趣味は悪いが、
仕掛け自体は簡単なもので張った糸に足がかかると
何か物が倒れたり、音が鳴ったりするくらいで
たいしたものじゃない。

なにより、後の語り草としては好評だった。

「ばらさないでくれればよかったのに」

とか言われたりもしたけど
やっぱ本気で霊を信じる人がトラウマになったりするかも知れないので
必ずばらしていた。

とある夏、
仲間内でまた心霊探検にいこうという話をしていた。

田舎の寂びれた場所にある昔の総合病院廃墟で、
県内の心霊スポットの中でも有数の大きさで、
周りは高さ3mくらいの工事用フェンスがしてあり
廃墟内はほとんど荒らされてないという。

俺は、その誘いを断り、
そいつらを脅かしに一人で後からそこに忍びこもうと思った。

夜になって、友達がそこに行ったのを電話で確認した後、
一人で車で後を追った。

その廃墟は老朽化が進み全面をフェンスで囲まれ、
入るのはかなり難しく
半地下になっていて埋まりかけた窓まで這って行き、
そこから入った。

いくら霊を信じていないとはいえ、
地下の空気は湿気ており友達にばれないためにも
ライトをほとんど点けなかったので気味が悪かった。

俺のいた場所からさらに下の階があり、
そこから人の気配や、懐中電灯の壁からの
照り返しのような光も少し見えたような気がしたので階段を下った。

地下半2階はさすがにライトを点けないと前が見えないので、
ばれないようライト前面を手でふさぎ
足元の障害物だけをわずかに照らして歩いた。

しかし階下にはさっき見えたと思った光の光源らしきものはなく、
ガタガタと音だけがした。

わずかに声も聞こえるが何を話してるかまでは聞き取れなかった。

俺は音のする部屋の前のドアまで来ると、
脅かそうと思って

「あれぇ、ひとりおおいぞぅ」

って言ってドアを勢い良く笑いながら開けた。

部屋に誰もいなかった。

声はやみ、ばたばたという音と、
クククっていう感じの人の声以外の音が聞こえた。

その部屋は床が半分水浸しで、
何十という数の大小のポリバケツが置かれていた。

そして激しく臭い。

ライトで部屋の隅まで照らすと
ダストシューターがあった。

おそらくさっき聞いた声は
上階にいる友達の声が響いてきたんだということがわかった。

次に音の原因を探ろうと
その音のする付近のポリバケツを開けてみた。

中身は人間の、というか元人間の中身だった。

しかしそれは音の原因ではなく
他に音の原因があるようで、さらに開けた。

新たに開かれたポリバケツを見てすぐ、
涙が溢れるのを止める間もなく声を出して泣いた。

ボロボロ涙が出てきてそれに向かって

「(開けて)ごめんな、ごめんな」

って言いながら泣いた。

どんな理由でもこんな廃墟の地下に放置され
俺のようないたずら好きな人間に
自分の屍を見られる筋合いはない。

ポリバケツを閉めてからも
しばらく心霊スポットの地下2階ということすら忘れて
ひとりで泣いた。

バタバタと鳴る音が霊であるかどうかなんて
既に関係はなかった。

廃墟に置かれたポリバケツの中身一つ一つの悲しさが
俺に入り込んできたような気がした。

しばらくして、
俺は上の階にいた友達に電話して合流した。

合流してからも半泣きの俺を見て、
幽霊でも見て気が動転してんのか、と思ったようで、
理由を聞かれたけど、その廃墟からでて落ち着いたのに俺は嘘ついて

「寂しかったから。」

って言って何故かまた泣いてしまった。

何故か友達と一緒に来てた女の子ももらい泣きした、
俺はお前になんかわかってたまるかバーカバーカ、と思ったけど
なんかちょっとかわいいから、それはそれでよかった。

     


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