Horror Cam Pic

先月下旬に出張で山形に行った時の事。  

駅前でレンタカーを借りて、
ぐるぐるとお客さんの所を周ってさ、
その日最後の約束先との商談を終えて、
車を返す為に市内に向かって山道を走っていた。 
商談の途中から雨が降り始めていてさ、
帰る頃には叩きつけるようなゲリラ豪雨の状態。 

お客さんからは「気ぃつけてな」って言われて、
山道でこの天気だし、車の返却時間までは
まだ時間的に余裕があったから、 
「まぁ、のんびり行くか」って、
結構ノロノロとしたスピードで走ってた訳ね。 

山道はギリギリで車がすれ違える位の道幅でさ、 
しばらくすれ違う車もないまま、ラッキー♪
って思いながらゆっくり車を走らせていたんだけど、
お客さんの所を出てから15分くらい経ったのかな。 

車の屋根を叩く雨音が一層酷くなってきて、
フロントガラスも全力でワイパー動かさないと
前が見えない状態。 
雨のせいで視界もかなり悪い中、
細い山道をグネグネと曲がりながら、 
うわぁ…危ねぇなぁ…とか思いながら、
慎重に運転してたんだ。

ふと前方に、オレンジっていうより柿色っていうのかな?
…派手な色が見えて、 
ノロノロスピードでそれに近づいて行くと、
道のど真ん中に傘が開いて置いてある。 

見える範囲で周りに人の姿なんてなかったから、
誰だよ、んなとこに傘捨てた奴って思いながら、
仕方なく車を止めたんだけどさ。 

車を止めると同時に、
道路に置いてある傘がふわっと浮かび上がった。 

当然、一瞬びびっちゃって、
何??って思ってよく見ると、 
柿色の傘を持った人影があってさ…
傘と同じような色の服を来た小さな人影が。 

開いた傘の正面が俺の方に向いていたせいで、
子供が傘の陰になっているのが
見えなかったのかったんだ…って「ホッ」としてさ。 
それで、車が突然止まったから気づいてくれたんだな~って、
その子がどいてくれるのを待ってた訳ね。 

雨の中で細い山道を走っていたのと、
傘の件があったというのも含めてさ、 
緊張をほぐす為に、
「ふぅ」って息を吐いて姿勢変えたんだけど、 
道の真ん中にある傘がどいてくれる気配が全くない。

朝の早い時間から新幹線に乗って山形まで来て、
車でお客さん周りをした後で流石に疲れていたから、 
どいてくれない子供に対してイラっってきてさ。 

軽くクラクションを鳴らそうかと思って手を動かそうとしたら、 



「しばらく待つのが良いだろう」 



…って、女性の声が聞こえて来た。
車の中には当然俺一人しかいないし、
車の外から聞こえてきた感じもしない。 
それどころか、激しい雨の音のせいで、
外からの音なんてまともに聞こえる状態じゃない。 

クラクションを叩こうとした手を浮かせたまま、
前方の柿色の傘を持った人影を凝視。 

それでよくよく考えたら、
この辺りに民家なんてないのよ。 
しかも、物凄く激しい雨で視界が悪くて、
前方にいる人影はぼんやりとしか見えないのに、 
柿色の傘だけは浮かび上がるようにくっきりと見えている。 

夕方でこの雨とはいえ、
外は比較的明るかったんだけど、 
怖くて怖くて何も考えられなくなって、
思考も体も完全に固まってしまってさ。 

そしたら、



「しばらく待つのが良いだろう」



…って、もう一度女性の声がしたんだ。 
何でかは知らないけど、
二回目の声を聞いてから、
スーッと緊張と恐怖感がなくなって、 
待てって言うんだから待った方がいいんだろうなぁ…
って思っちゃってさ。 

少し後ろにバックして、車を道の端に移動させて、
ハザードランプをつけたのね。 

車を道の端に寄せて前方を見ると、
さっきと変わらずに、
柿色の傘を持った人影が道の真ん中に立っている。 

一服するかぁ…って、
煙草を吸おうかと思って懐を探ったんだけど、 
…子供?が見てるし…なぁ…と思い直して、
懐に入れた手を取り出そうとした時に、 
ふと助手席に置いてある物に目がとまった・・・・・・

助手席にあったのは、
来る時に上野駅で買った『ひなの焼き』の袋。
『ひなの焼き』っていうのは、
銘菓ひよ子のお店が上野駅限定で
販売している大判焼きでさ、
白餡と黒餡の二種類の大判焼きに、
ひよ子の焼印がしてあるだけの物なんだけどね。

来る途中の新幹線で食べようと思って、
白・黒一つづつを買ったんだけど、 
山形に到着するまで爆睡しちゃって、
そのまま車に置きっぱなしにしてたんだ。 

助手席に置いてある『ひなの焼き』の袋を
開けて中を嗅いでみたら、
別に変な臭いもしていない。 

おっ♪いけるじゃん、と思いながら、 
煙草を吸う替わりに、水気でしなっとした
『ひなの焼き』を食べようとして、 
ふと…正面を見ると、
柿色の傘の人影がいなくなっている。 

「えっ?」と驚いて周りをキョロキョロと見ると、
助手席側の窓の外に柿色の傘が見えた。

後から考えたら、道の端に車を寄せたせいで、
人が立つスペースなんてないはずだし、 
どうやって移動したんだ?って思うんだけど、
その時は別に不思議に思わなくてさ、
この傘って和傘なんだ、
傘しか見えないな…
さっきも雨で姿はまともに見えなかったけど、
とか、くだらない事を思ってた。 

何か…見られてるのに、
一人で食べるのもなぁ…と思って、
持っていた『ひなの焼き』の袋を助手席に置いて、
「食べます?」って助手席の窓に向かって声を掛けたんだ。
返事なんて期待してなかったし、
自分が取り出した『ひなの焼き』にかぶりついたら・・・



「いただこう」



って女性の声。
行儀が悪いんだけど、
口の中で『ひなの焼き』をもごもごさせならが
「どうぞ」って応えて、 
あ~黒餡だったかぁとか思いながら、
ペットボトルのお茶を流し込んだんだ。
そうしたら、



「ほぅ…甘いのぉ…」



って嬉しそうな女の子の声。
へっ?と思って助手席の方を見るけど、
袋は助手席に置いてあるし、
窓の外にも変わらず柿色の傘が見える。
「………」

車と道路を打つ雨音だけが響いてる中、
喜んでもらえているなららいいか…って思って、 
フロントガラスを叩く雨粒を眺めながら、
チラチラと助手席の方を窺ってたのね。 
時間にしたら1~2分だと思うんだけど、



「そろそろ良いだろう……馳走になった」



って女性の声がした。
助手席の方を見ると、
さっきまで窓の外にあった柿色の傘が見えなくなっている。 
念の為に車の周辺を見渡してみるけど、傘も人影もない。
助手席に置いてある『ひなの焼き』の袋の中を確認すると、
中には『ひなの焼き(白餡)』が一つ。

煙草を取り出して火を点け、紫煙を吐き出して、
「行くか」と慎重に車を動かそうとすると、 
久しぶりの対向車が、
ノロノロとしたスピードで山道を上がってくる。 
じーっと対向車が通り過ぎていくのを確認して、
ゆっくりを車を発進させた。

その後は、何かあるのかな?
と用心しながら運転していたけど、 
何事もなく山を降りる事が出来、
車も無事に返すことが出来た。 

袋の中に残っていた『ひなの焼き』は、
車を返した後に食べてみたけど、 
ほとんど味らしい味がしなくて、
パサパサとした感じになっていた。

おちもなく申し訳ないが、
個人的に生きてきた中で一番奇妙な話。
 


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