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『ひきこさん』について知っていること。 

彼女の本当の名前は、
『森妃姫子(もりひきこ)』という。

背が高くて活発で、
良く笑う可愛い娘だったが、
先生にえこひいきされたことと、
この名前が偉そうだという事で、
彼女は長い間いじめられてきたのだった。

かばんの中に子猫の死骸を入れられたり、
給食に虫を入れられたり、
上靴をカッターでズタズタにされたり、
教科書をゴミ箱に捨てられたり、
掃除用具のロッカーに閉じ込められたり…。

思いつく限りのいじめを受けて来ていた。

ある日、いじめっ子のグループが
彼女の手を紐で縛り付け、
足を持って学校中を引きずり回した。

「ひいきのひきこ、
引っ張ってやるよ!」

ひきこさんは痛がって泣き叫んだが、
周りは誰一人として助けてくれることはなく、
それを笑いながら見ているだけだったという。

引きずられて学校を一周して
教室に戻ってきたとき、彼女の顔は、
曲がり角やでこぼこに打ち付けられ、
酷い傷が出来てしまっていた。

そうして、
ひきこさんはとうとう学校に来なくなった。

ひきこさんは、
ずっと長い間家の中に篭って、
布団を被って泣き続けるだけの
毎日を過ごしていた。

家では酒乱の父親がひきこさんを殴りつけた。
母親も一緒になって、
またもひきこさんを引きずり回すのだった。

それでも、
ひきこさんは泣きながら家具にしがみついて、
学校に行こうとはしなかった。

そのうち部屋から出てこなくなったため、
両親は一切ご飯を与えないことにしたのだという。

しばらくして両親が部屋を覗きこむと、
そこには空腹に耐えきれず、
虫を捕まえて食べているひきこさんの姿があった。

両親は気味悪がって、
彼女を部屋に閉じ込めたまま、
外に出そうとしなくなった。

ただ、一日に一度、
コンビニの100円オニギリと水を与えるだけで、
彼女は部屋から出ることなく、
何年も何年もその部屋の中だけで過ごしたのだった。

ひきこさんは雨が好きだった。
家の外で鳴くヒキガエルの醜い顔は、
自分の顔に刻まれた傷の醜さを忘れさせてれる。
ひきこさんは可愛いヒキガエルを食べた。

それからしばらくして、
雨の日にひきこさんは小学生を襲うようになった。

部屋の窓から抜け出て、
異常にひょろ長くなった背丈で、
かつて自分をいじめた小学生を、
逆に引きずるようになったのだ。

彼女は顔を見られるのを極端に嫌がり、
みんなが傘を差して視界が悪くなる
雨の日以外は家の中に引きこもっている。

しかし、雨が降ると近隣の小学校付近に出没しては、
小学生を追いかけ、引きずるのだという。

何でも、ひきこさんはおかしくなってしまい、
傷が治りそうになる度に
自分でカッターナイフで切りつけて、
それで口と目が裂けてしまったとか。

その目立つ容貌にも関わらず、
彼女を目撃するのは不思議と
小学生ばかりである。

また、彼女は自分の顔を見た
小学生を決して逃がしはしない。
小学生を見つけると、
恐い顔で追いかけながら、

『何故逃げるー!
私の顔は醜いか!醜いかァァァー!!』

と叫びながら追ってくる。

この時、何故かひきこさんは
まっすぐ走れないのだという。
カニみたいに横向きに走るのにも関わらず、
そのスピードは異常に速いらしい。

そして、小学生の足を捕まえると、
そのままズルズルと引きずって、
猛スピードで走り出す。

階段も引きずったまま平気で走るので、
そのうち小学生はズタズタの肉塊になってしまう。

それでも、次のターゲットとなる
小学生を見つけるまでは、
彼女はその足を離さないのだ。

彼女の家には、引きずられた両親と、
引きずられた小学生が
コレクションされているという。

それで雨が降ると、
彼女はその時の一番お気に入りの子を
連れて出かけるのだそうだ。

しかし、ひきこさんは
いじめられっ子だったので、
いじめられている子は襲われない。

また、名札にかつて自分をいじめた子と
同じ名前が書いてあると、
恐がって近寄ってこないのだ。

ひきこさんに出会ったら、
助かる方法が幾つかある。

一つは前述のように、
いじめられっ子か、
いじめっ子と同じ名前であること。

もう一つは『私の顔は醜いか』と聞かれたときに、
逃げずに『引っ張るぞ!引っ張るぞ!』と叫ぶこと。

この時、普通に『綺麗だ』と言うと、
ひきこさんは気に入って引きずりたがる。

また、逆に『醜い』と言っても、
怒って引きずりたがるという。

更に『まぁまぁですよ』と答えても、
口裂け女じゃないので無駄である。

ひきこさんは歪んだ復讐のため、
小学生を引きずり回すが、
結局自分も引きずり回されたことがトラウマなのだ。

最後にもう一つ。
ひきこさんは自分の顔を見るのを極度に嫌がるため、
鏡を見せられると逃げ出していくらしい。

雨の日、小学生は傘と一緒に
鏡を持ち歩くといいかもしれない。
 


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